
軽井沢出発の日に天国があった!
軽井沢からいよいよ帰途に着く出発の日、午前中、南軽井沢(*001)に行きたかったが、妻の腰が心配なので、残された時間はお土産をゆっくり選んで過ごすことに。
出発の準備をするペンションの各室内から、ざわざわ忙しそうな物音がする。「ママ、鼻水が止まんないから、ティッシュ取って。」なんて聞こえてくるところからうなずけるのだが、自分たちが住んでいるところと温度湿度が違いすぎるところへの宿泊は、しっかり暖房設備のある施設でも、やはり体調を壊しがちになるらしい。僕も妻も特に室内では寒い思いも熱い思いもなく過ごしたのだが、なんか体調の調子が狂う感じが否めない。
僕も床暖房で口内が乾いてそんな感じがするのか、それともほんとに風邪をひいてしまったのか、いまいち判断がつかない体調だった。口には出さないが、旅疲れといつもと違う温度湿度で、妻も似たような状態と思われた。
それでも軽井沢最後の朝をすがすがしいものにするために、僕たちはペンションのお風呂にゆったり浸かった。相変わらず水質だけは、お気に入りで、お風呂から上がると、僕も妻もすっかりしゃんとしてので、仕度を整えチェックアウトに向かった。(*002)
チェックアウトにはあの名物オーナーが対応!最後の印象をよくするためか、リップサービスが始まる。クレジットカードで支払ったのだが、このオーナーいまいちよくわかっていないらしく、
「これキャッシュカードでしょ?最近ICチップカードのクレジットカードが多くてねぇ!それも暗証番号を忘れたっていうお客さんが多くて困っちゃいますよ!!」とまくしたてるオーナーに、僕は言葉を挟むタイミングを掴めず、苦笑いのままうなずき相槌をうった。
ちなみに僕のカードもクレジットカードだ!キャッシュカードで支払いをするのは、デビットカードという、いまではマイナーになってしまった決済サービスだ。
そして最新のクレジットカードには、ICチップが付いているものが多いが、これはセキュリティ強度を高めたものである。僕も持っているが、メインで使うクレジットカードには、ICチップは付いていない。もちろんそれだからと言って、クレジット決済でなんらかの支障をきたすものではない。
それらのことが僕の頭の中をチラリと横切ったが、なにせ長野のさっぱりとした山男といった感じで、はきはきと相手に言葉をぶつけるような人なので、ちまちまとそんな説明の言葉を挟めなかった。ともかく問題無くチェックアウトを済まし、気分晴れ晴れでペンションを後にした。(*003)
軽井沢到着初日に、駅前の軽井沢プリンスショッピングプラザで、お土産の候補をざっと見ておいたので、さっそく買いに行くことに。
軽井沢駅に向かう途中で、アトリエ・ド・フロマージュ(*004)というお店の店頭で、チーズ・ソフトクリームが売られていたので、妻に薦めるとさっそく元気に飛びついた。こういう時の妻の行動は、素早く無駄も躊躇も無い。
そしてさっそく買って来たチーズ・ソフトクリームだが、食べてみるとかなりチーズの風味は薄かった。思いっきりチーズの味がすると、敬遠する向きもあるので、そのための配慮だろう。
写真を見てもわかるように、ちょっと巻きが1段足りないように思われる。もちっとゴージャスにうず高く巻き上げて欲しいものですな。それでもひっきりなしに店頭では、観光客が朝から買い求めていた。
あけっぴろげな高原気候の晴れた空の下を、僕はトランクカートを引きながら、妻はソフトクリームを舐めながら、軽井沢駅を抜けて、軽井沢プリンスショッピングプラザへ向かった。すでにすごい人ごみになっていた。(*005)
お目当てのお土産を買うショップは、軽井沢ファーマーズギフトだ。帰ったあとにこの紀行文を書いているうちに気付いたのだが、店内の半分が軽井沢2日目にドレッシングを買ったサンクゼールになっていた。正直、商品の雰囲気が似ているので、レジも別らしいが、その時はまったく同じ店の店内だと思っていた。
そして前にも書いたが、この時の観光客の試食っぷりのすさまじいこと・・・。たしかにいつものスーパーに置いてある商品より、濃厚で素材の味がしっかり出ていて、造り込みの深さのある商品ばかりだったので、一口食べてみると、その美味しさは歴然の差だ。でもみんな食べすぎ・・・。
買い物しながら、僕が気付いたことが、販売員の方達の対応が丁寧なこと。関東より「ありがとうございました。」の言葉が、最低2つは多いように思える。マニュアル以外の対応以外は何もしない感じのレジに慣れた僕には、その対応の笑顔がまぶしい。(*006)
そして妻が大量かつ素早い試食の上で、選んだお土産のひとつがこれ。ゴルゴンゾーラとバジルの入ったクリームで、パンやサラダ、パスタに付けて食べると美味しそうというわけで、ごった返す観光客の中で大きなトランクカーとを引いている邪魔な僕をわざわざ引っ張って行って試食させてくれた。(*007)
他にもギフトセットになったドレッシングなどを買い込み、素材のいい食材を試食しまくって元気になった妻に引きずられるようにして、次のお店へ向かう。荷物がさらに増えそうで、僕はちょっと憂鬱・・・。
この軽井沢プリンスショッピングプラザに、クロネコヤマトや佐川急便などの宅配所が一つあると、かなり商売になるのではないかと思った。
続いて、「しらかば」というジャムとお菓子のショップで、妻は会社用のお菓子のお土産を購入。さらにとなりのショップ「ハートメモリー」で、写真のアクセサリー、その名も「信州もっこりんご」(*008)を、ネタ用のお土産にする。1個399円(税込み)。こういう我が家では決して置かないものが結構好きな妻は、とっても嬉しそうにお土産として買ったりする。
もっこりさせてにやりとする表情に、何故かすがすがしいものさえ感じる。頭部は何気にグラデーションカラーとなっており、思ったより造り込みがきちんとしている。そして背中の「信州」の文字が泣かせる・・・。
願わくば冗談のお土産として通じる相手に、喜んで欲しいので、誰に渡すかは、それでも慎重のようだ!!非常に危険な香りのするゲームを妻は楽しんでいた。
お土産のお買い物も終わり、店外へ出てみると、駐車場には各近県から来た車でひしめいていた。午前中だったが、ほぼ空きがない。交通事情として聞いたところによると、混んだ時は近くのインターチェンジから、ここまで渋滞して僅かな距離を6時間ぐらいかかったことがあるとか・・。店外のテーブル&チェアでちょっと一息をつきながら、帰りの電車の時間の確認。しなの鉄道はそのローカルさから、1時間に1本くらいの発車ペースだったので、この時ちょうど次の発車時刻まで1時間ぐらいあった。
妻の腰の安静を考えて、次の発車時刻まで、軽井沢プリンスショッピングプラザ敷地内中央の「芝生のひろば」でのんびり過ごすことにした。(*009)
前にも書いたが、ここは昼と夜とでは、天国と地獄の寒暖の差だ。夜の激しい寒さが別世界のように、この時間帯では陽光があたり一帯に降り注ぎ、木々ややさしく風に揺れていた。
関東ではとっくに過ぎ去った桜のシーズンが、ここ軽井沢のゴールデンウィークにあっては、いまが満開だった。ゴールデンウィークに桜満開とは、お花見には最高の組み合わせだ。いまこの絵のような景色を見ていると、得した感じになる。この造られた人工自然のエリアは、新しい軽井沢を象徴するものかもしれない。空気はどこまでも果てしなく澄んでいた。
そして「芝生のひろば」中央に行って、ふかふかの芝生の上で寝っころがって、帰途に着く前に軽井沢の空気と風と陽光に浸ることにした。(*010)
辺りを見回すと、近県から来た観光客が思い思いに、広がりのある空間を楽しんでいる。多くは子供連れで、そして犬を連れた夫婦や家族が圧倒的に多かった。アーバンなファッションに身を包み、アウトレットショップでガシガシッお買い物をするような人は、この芝生の上にはまず見かけられない。
造られ整備されたものであろうが何だろうが関係なく、僕は間違いなく生活の中ではなかなか感じる機会の少ない最高の気分に浸っていた。
都市の公園にはない、圧倒的に澄んだ空気と広がり感のある空間がここに展開したいた。
妻とのんびり芝生の上に横になる。芝生の感触がたまらなく柔らかくみずみずしくて、僕は裸足になって、あたりをゆっくり歩く。まるで絵の中にいるような気分。
自然は厳しい。決して人間のためだけに存在するのではないのだから。このような人間が快適と感じる環境に最適化された自然(と言っていいものかどうかは人によるだろう)にいると、僕は「恵み」というものは、自然に受動的に与えられるものというより、数知れない先人達の努力の末にようやくわれわれにもたらさせて来たもののように感じさせる。(*011)
空気や日の光は、無くてはならないものだが、この場合「恵み」として考えると、それ以前の存在のための定義として、あまりにも必然的すぎる気がする。
この天国と呼べる空間に、時間が許せば、いつまでも浸っていたかった。子供達や犬が活発に動きながらも、不思議と時が止まったかのように思える芝生の公園に、それでも出発の時間は刻々とやって来るのだった。
